うさこ観覧記

またブログ始めました。展覧会観て自分のために何か残さないとすぐ記憶が流れていくから。

モダンデザインが結ぶ暮らしの夢再び

パナソニック汐留美術館にて開催中の「モダンデザインが結ぶ暮らしの夢」展プレス内覧会に行ってきました(写真は特別に許可を得て撮影)。

昨年高崎市美術館で開催された展覧会の巡回展で高崎にも観に行った。けれど群馬県の美術館巡りの一つで巡ったのと(時刻表とにらめっこ)見たかった旧井上房一郎邸に時間を割き、盛りだくさんで見応えある展示の理解は…ちょっと心もとないなあと思っていたので今回会場はだいぶコンパクトになって高崎よりも作品数は少ないけれど、短時間で要領よく把握でき全体像を理解するのには助かる展示だった。

というのも主な登場人物が7人もいて相互に関係しあっているので。

1930年代から60年代まで日本の建築界デザイン界で活躍した7人。

  1. ブルーノ・タウト(1880-1938)建築家 
  2. 井上房一郎(1898-1993)実業家
  3. アントニン・レーモンド(1888-1976)建築家
  4. ノエミ・レーモンド(1889-1980)インテリアデザイナー
  5. 剣持勇(1912-1971)インテリアデザイナー
  6. ジョージ・ナカシマ(1905-1990)家具デザイナー
  7. イサム・ノグチ(1904-1988)彫刻家

彼らが戦争をはさんで日本のモダンな暮らしを夢みたこと。それが今回の展示内容。

会場構成がとてもよく、木の香りのする凝った動線と赤緑青オレンジグレーの5色で空間と章分けがなされ(それぞれ関係性があるから部屋を分けないで前の章が見えてるのがいい)、そうやってこの7名を順序よくまとめあげてる。

 

以下面白い!と思った点、自分用のメモまとめを章ごとに

 

第1章 ブルーノ・タウトと井上房一郎たち「ミラテス」を中心に(赤コーナー)

ジャポニスムブームも終わり停滞していた日本が1928年国立の商工省工芸指導所を仙台に設立。1933年には来日中のタウトが講師となり、それまで職人技だった日本にデザイナーがプロトタイプを作り生産するという工業デザインの基本を指導した。

その後井上がタウトを高崎に迎え、タウトがデザインした工芸品を銀座の家具工芸店「ミラテス」で販売する(作りっぱなしでなく売ることまで考えていた)。ミラテスは今のバーニーズニューヨークのあたり。聖路加病院のお医者さんや丹下健三などおしゃれなお客に生活を豊かにする生活用品を販売。撮影不可のものが多いので会場でどうぞ。確かにおしゃれ。

タウトは建築家。しかしナチスに追われて来日した経緯から建築家としては大々的に仕事はできず(特高が尾行していたエピソードも)会場では唯一現存の熱海の旧日向別邸の紹介も。

 

第2章 アントニン&ノエミ・レーモンド(緑のコーナー)

チェコ出身の建築家アントニンとフランス出身のインテリアデザイナーのノエミ夫妻はフランク・ロイド・ライトの助手として1919年に来日。アントニンは前川國男吉村順三、ジョージ・ナカシマなど後進を育てた日本のモダニズム建築の先駆者。

「シンプルな木造、手触り、暮らしへの愛着こそがレーモンドスタイルだろう。」という解説あり。それはノエミの家具(なんとなくかわいいポイントがある)が合わさった建物空間とのトータルコーディネートで実現されたスタイル。ノエミの作品がどれもいい。

フレームの赤がかわいい

薪置台もかわいい

1951年に建てられた港区笄町のレーモンド自邸は現存しないけれどそれを模した井上房一郎邸は現存。高崎市美術館に併設されそちらを昨年の展覧会の時に見学したのでブログの付録写真として最後に掲載。レーモンドスタイルを実感できる場所。

 

第3章 剣持勇の「ジャパニーズ・モダン」(青コーナー)

剣持は前述の商工省工芸指導所でタウトより家具デザインを学ぶ。

3つの代表的な椅子

写真真ん中の青い椅子

スタッキングスツール202公団住宅用と。なるほど。

柏戸椅子←一度見たら忘れられない

丸椅子←これは工芸館でお馴染み 。背景の写真もいい。

  

第4章 ジョージ・ナカシマと讃岐民芸具連(オレンジコーナー)

木を知り尽くした味わい深い家具。特にチェストがよかった。

 

 

第5章 イサム・ノグチの「萬來舎」とあかり(グレーコーナー)

 

イサム・ノグチについて、この展覧会では慶應義塾大学の萬來舎(ノグチルーム)の紹介とあかりシリーズ。

展示空間はどれもよいのだけれど中でもハイライトと思えるのがこのあかりコーナー。

単体や広い展示室で数個並べられているときまた違い、確かにこれは空間に浮かぶ彫刻だ!と思える空間。当時の写真(この写真がまたいい)と展示のあかりが呼応する(解説で丹下健三の自宅で写ってる女の子は丹下氏のお嬢さんだそう)。

 

会場に展示されている名作椅子の数々は本展覧会の第一の見どころ。建築の紹介はどうしてもパネル展示が多くなるのでパネル読むのはちょっと…という人は1930年代から60年代の椅子をいろいろ見に行く、でいいかもしれない。

そして会場を順に見ていくと、昭和の初めのモダンデザインがみた夢は結構変わらず今に続いているなあと。日本の風土に則した色褪せない魅力。

それと、これは解説で大量生産=工業生産ではなかったという指摘があってなるほどなあと思ったこと、そもそもモダンデザインは大量生産で人々に豊かな暮らしを届けることを目指していたはずなのに、ここに展示されている椅子を見渡すと手仕事感や手触りが大切にされているということ。

 

最後に。

本展示の扱う1930から60年代といえばどうしても戦争の時代を語らなければならない(実際ブルーノ・タウトナチスを逃れて日本にやってきた)。けれど今回は会場の都合からかその点の言及はわずかだった(会場外の動画で外国人は帰国、日系人ふたりが米国の収容所にいたことが触れられている)。高崎の展示ではその点もしっかり押さえられていて(アントニン・レーモンドは米国で東京の家屋を焼夷弾で焼き尽くすための実験に参加、井上房一郎は満州開発へ)、実際見たときもその点がかなり心にひっかかったし陰影含めてこそ展示が厚くなると思うので今回も扱いあればなあと思った。

 

「モダンデザインが結ぶ暮らしの夢」展はパナソニック汐留美術館にて2020年3月22日まで開催。

 

◆付録

昨年高崎展の時に見学した旧井上房一郎邸の写真

この玄関前の椅子とテーブルの空間いい。生活が豊かになるだろうなあと思った。

高崎市美術館